テーブル1
「書写・書道の学習内容論・教材論などについて」
概要報告
- はじめに
最初に、担当者が事前説明をおこなった。押木は、理論面よりテーマに関するこれまでの成果を[項目・規則性・合理性・汎用性・他領域との関連]の視点で整理し、課題について述べた。樋口は、[基本的問題・字形や字体の基準・毛筆に関係する問題・動作や運動・時代や環境]などの視点から、現実的に発生している課題等について述べた。(別紙資料)次に、出席者の持つ問題意識について自己紹介を兼ねて述べる時間を取った後、話し合いをおこなった。ただ、時間配分から十分議論ができなかった点は、担当者としてお詫び申し上げたい。
以下、出席者から出された意見等の概略について記す。まとめにあたって、類似の発言については一つにまとめたが、その際発言者の意図が正確に反映されていない場合があるかも知れない。この点についても、お断りしお詫びしたい。
- 言語の伝達という面を主として
- これまでの成果(字形の整え方の理論等々)を確認し共通認識することで生かしていく必要がある。まだ教科書などに生かされていない部分の確認や、研究が十分ではないところを確認も必要か。
- 日常的に書く場面で役立つ学習内容について(楷書信仰的なものがあるのではないか。行書という発想から、速書き・書きやすく書くなどの発想へ。筆脈なども含めた動きの学習として。行書の導入教材等の工夫等。文を書く流れの中で文字を書くこと。)
- 文字の文化についての学習において、単なる文字の成り立ち等ではなく、金文などの実際の物を参照したり、実際に手を動かして書くなどの活動を取り込める国語であり、書写であっても良いのではないか。
- 発達段階・学習段階と学習内容の明確化
- 小学校3年生以上になると、現状として毛筆ばかりに着目されるようになる。義務教育段階の終了時まで硬筆により学習内容を明らかにすることで、書写の効果が増すのではないか。平仮名の再学習なども。
- 幼児期から低学年くらいまで、たとえば筆順学習などについて、子どもたちが興味を示さないこともある。学習内容と教え方について、発達段階を踏まえた研究も必要ではないか。
- 非言語的な要素も含めた内容について
- 手書きすることの意義、キーボードでないことの意義の明確化。
- 文字を書くことに、単なる言語の伝達ではない要素があることは多くの人が感じているだろう。その部分を、理論化して提示することが、書写にとって重要である。
- 文字を書くことにおける、創造する力・表現する力・身体を用いてあらわすことについて、(従来の書道などの枠にとらわれない考察も含め)明らかにしておく必要がある。
- 情緒の安定などの面からも、字を書くこと、特に毛筆で字を書くことは効果があることは体験的に感じている。脳に関する研究等から、これらを立証しておくことが必要ではないか。
- 書道教育の内容論・学習論について
- 漢字仮名交じりの書の教材について、また、その評価について。
- 書の教材は古典だけではないはず。しかし、単に「自由に書こう」では書けない子もいる。
- 書におけるクラッシックとポップスという発想もあるのではないか。
- 教材化と授業との関わりから
- 理論としての蓄積を、子どもたちの身近なところから、やさしく・楽しく学習できる教材・学習活動に結びつける部分が必要である。
- 毛筆の場合、半紙にとらわれ過ぎていないだろうか。
- その他
- まだ「お手本で字を書く」意識から脱却できていない現実への対応。
- 横書きについて(書写として、書道として)
- 学年や指導目的に応じた用具用材、特に筆記具についての検討。毛筆を用いると効果的な学習内容の明確化等。
- 「書写」という名称および書写における用語を定着させる方策について
- 他のテーブルの問題かも知れないが、一般の人が書写に求めているものを再確認する必要はないか。
- 教科書における持ち方の写真などについての問題。
補遺 (アンケートも参照した上でのまとめ)
ラウンドテーブルにおいて、十分なまとめの時間を取ることができなかったが、アンケートの記述の参照も含め、担当者の見解として、内容は以下のようにまとめられると考える。
各自の問題意識として提示された内容に多く共通する点として、言語の伝達という機能以外の部分の明確化ということがあったように思われる。特に情報機器が普及する中で、手で書くことによって生じるコミュニケーションにおける作用・学習や精神面での効果などを重要視する意見である。従来の芸術的な発想に加え、新たな視点からも、これらについて立証することが必要であると感じられた。
討議において出された話題として、言語の伝達という機能においても、文字について視覚的な側面のみに着目されている現状についての意見が見られた。見た目において正しいかどうか、見た目において整っているかどうかという点のみを重視しているのではないか。たとえば、字が汚いことのイメージや、行書の問題などがそれであり、行書=崩す=読みにくいという意識の問題があることなどが話題となった。この現状に対し、「行書」という意識から「速書き」という意識への転換なども述べられた。担当者としては、従来の視点からは行書、また別の視点からは書く行為における動きという面や、身体の動作という面の学習内容化のための研究が必要であると感じられた。
また討議において、教科書教材の具体的問題が話題にのぼった。主として姿勢や持ち方の写真などについて述べられたものであるが、この点はいまだ教材が「写真」であり学習活動と結びついていないという問題としてもとらえられる。一方で、これまでの本学会における学習内容に関する研究成果の整理と確認作業をおこなうとともに、実際の教科書教材を検討する作業の必要性を示しているとも考えられるだろう。
多くの問題提起がなされたラウンドテーブルであり、いずれも重要な問題であることが確認されたが、その中でも以上の点から、担当者として次の3点をまとめとしておきたい。
- 文字を書くことにおける、言語の伝達・記録という機能以外の要素についての明確化とその立証が必要である。
- できあがった字に着目する学習活動から、(従来の行書や筆脈への着目なども含めた)字を書く動作や行為に着目した学習活動を重視する方向性は、速書き・文の中で文字を書くこと・身体活動性・表現等の各場面において必要なことではないか。だとすれば、その学習内容化が必要なのではないか。
- 本学会における学習内容に関する研究成果の整理と確認作業をおこなうとともに、実際の教科書教材を検討する作業をおこなうことは、効果があるのではないか。
担当:押木秀樹・樋口咲子